SBI新生信託銀行とSBI VCトレードは9月7日、信託型円建てステーブルコイン「JPYSC」の裏付け資産のうち10億円について、日本国債による運用を開始したと発表した。対象は償還までの期間が3カ月を超えない短期国債で、2026年6月1日に施行された改正資金決済法で新たに認められた運用枠を使う。(参考: SBIホールディングス「信託型円建てステーブルコイン『JPYSC』、裏付け資産の一部で日本国債の運用を開始」)
この記事のポイント
- SBI新生信託銀行(発行元)とSBI VCトレード(発行委託者)が、JPYSCの裏付けとなる信託財産のうち10億円を3カ月以内の短期国債に振り向けた。
- 従来は要求払預貯金での保全が原則だったが、改正資金決済法により発行額の50%を上限に短期国債や定期預金での運用が認められた。
- 9月7日時点の発行残高は約201億円相当で、今回の運用額はその約5%。運用で得た収益は保有者には配分されない。
裏付け資産10億円の短期国債運用
JPYSCは、SBI新生信託銀行が発行し、電子決済手段等取引業者であるSBI VCトレードが取り扱う円建てステーブルコインである。今回の運用は、発行委託者であるSBI VCトレードの指図に基づいて発行元のSBI新生信託銀行が実行した。
運用に充てたのは10億円で、対象は償還までの期間が3カ月を超えない短期国債に限定されている。両社は償還請求に応じるための流動性を確保したうえで、信託財産の一部を短期国債で運用する方針を示している。(参考: あたらしい経済「SBIの円ステーブルコイン『JPYSC』、裏付け資産10億円を国債で運用開始」)
SBIホールディングスはニュースリリースの副題に「デジタル金融と伝統的金融市場をつなぐ資金循環の創出へ」と掲げた。ステーブルコインに集まった円資金を国債市場に還流させるという位置づけを、発行体側が明示した形になる。
改正資金決済法による運用対象の拡大
今回の運用を可能にしたのは、2026年6月1日に施行された改正資金決済法と関係法令である。改正前、信託型ステーブルコインの裏付け資産は要求払預貯金(普通預金など、いつでも引き出せる預金)で保全することが原則とされていた。
改正後は、一定の要件のもとで、発行額の50%を上限に、3カ月を超えない国債証券や定期預金による運用が認められた。定期預金については、中途解約が可能で元本割れが生じないことが条件とされている。(参考: NADA NEWS「ステーブルコインJPYSC、短期国債で運用開始」)
| 項目 | 改正前 | 改正後(2026年6月1日〜) |
|---|---|---|
| 運用できる資産 | 要求払預貯金が原則 | 要求払預貯金に加え、3カ月を超えない国債証券・定期預金 |
| 上限 | 該当なし | 発行額の50%まで |
| 定期預金の要件 | 該当なし | 中途解約が可能で元本割れが生じないもの |
| JPYSCでの適用 | — | 発行残高約201億円のうち10億円(約5%) |
今回の改正は裏付け資産の運用柔軟化だけでなく、仲介のみを行う「仲介業」の新設や、利用者資産に対する国内資産保有命令の導入も含む。ステーブルコインの発行体規制と、暗号資産取引に関わる事業者規制が同時に手当てされた改正だった。
発行残高201億円とレンディング69億円
両社の発表によると、9月7日時点のJPYSCの発行残高は約201億円相当で、あわせて提供する「JPYSCレンディング」の申込残高は約69億円相当だった。両者を合わせた規模は約270億円相当になる。
発行残高201億円に対して法令上の運用上限は約100億円だが、実際に短期国債へ振り向けたのは10億円にとどまる。上限の10分の1程度という水準であり、まずは限定的な規模で運用体制を立ち上げた段階と読める。
JPYSCをめぐる経緯
2026年6月1日改正資金決済法が施行。信託型ステーブルコインの裏付け資産の運用対象が拡大した。
2026年6月24日国内初の信託型円建てステーブルコインとしてJPYSCを発行。SBI VCトレードの口座内限定で先行提供を開始。
2026年7月16日「JPYSCレンディング」の提供を開始。当初は12週間・年率3%の条件で募集した。
2026年9月7日裏付け資産のうち10億円で短期国債の運用を開始したと発表。発行残高は約201億円相当。
運用益の帰属と価格の扱い
保有者にとって直接の変化は生じない。SBI VCトレードの取引画面では引き続き1JPYSC=1円の固定価格で扱われ、国債運用で生じた収益が保有者に分配されることはない。
CoinChoiceは今回の措置について「発行残高を減らしたのではなく、資金の置き場所を変えただけ」と整理している。同時に、日本国債の時価変動を通じて理論上は元本割れの可能性が残る点にも触れ、運用対象を短期国債に限り、要求払預貯金以外の資産を50%までに制限することでリスクを抑える設計だと説明した。(参考: CoinChoice「SBI、円建てステーブルコインの資金10億円を国債で運用へ。何が変わる?」)
利回りを受け取りたい利用者向けには、別サービスであるJPYSCレンディングが用意されている。JPYSCそのものを保有するだけでは利息も収益分配も発生しないという建て付けは、今回の運用開始後も変わらない。
用語の整理
- 信託型ステーブルコイン:信託銀行が受け入れた金銭を信託財産として保全し、その受益権をトークン化して発行する方式。資金移動業者が発行する方式とは法的な位置づけが異なる。
- 発行委託者:発行元の信託銀行に対し、発行や運用の指図を行う立場。JPYSCではSBI VCトレードが担う。
- 電子決済手段等取引業者:ステーブルコインの売買や交換、管理を業として行う登録事業者。
- 短期国債:償還までの期間が短い国債。今回の運用対象は残存期間3カ月以内のものに限られる。
海外発行体の収益構造との距離
裏付け資産を国債で運用する手法自体は、海外の主要発行体では中核の収益源になっている。SBI VCトレードのコラムによると、USDCを発行する米サークルの2025年第3四半期の準備金利息収入は7億1,100万ドルで、全収益の約96%を占めた。(参考: SBI VCトレード「ステーブルコインUSDCを発行するサークル社の2025年Q3決算分析」)
今回のJPYSCの運用額10億円は、この構図と比べれば規模がはるかに小さい。円金利の水準そのものも、ドル建ての短期金利とは前提が異なる。もっとも国内の金利環境は変化しており、三井住友DSアセットマネジメントは2026年8月のレポートで、日本の長期金利が一時2.945%まで上昇したと伝えている。
編集部の見方では、今回の運用開始は収益への即効性よりも、法改正後の運用枠を実際に使える体制を先に整えた動きと位置づけられる。根拠は、運用額が法令上限の10分の1程度にとどまる一方で、発表が改正法施行から3カ月あまりというタイミングで行われている点である。
今後の論点
第一に、運用比率を今後どこまで引き上げるかである。上限の50%に近づけるほど発行体の収益は改善する一方、償還請求が集中した局面での流動性確保が課題になる。
第二に、運用益の使途である。現状は保有者に配分されないため、発行体が手数料を引き下げるのか、加盟店やパートナーへの還元に回すのか、収益をどう扱うかは明らかになっていない。
第三に、他の円建てステーブルコインとの比較軸である。資金移動業者として登録したJPYC株式会社が発行するJPYCも、日本円の預貯金および国債を裏付け資産としている。信託型と資金移動業型では規制の枠組みが異なるため、裏付け資産の構成や開示の粒度が比較材料になる。
両社はJPYSCについて、国内外の送金やオンチェーンの外国為替、RWA(現実資産のトークン化)での活用を見据えていると説明している。今回の運用開始が決済用途の拡大にどう結び付くかは、まだ確認できていない。(参考: JinaCoin「JPYSCが裏付け資産で国債運用を開始──改正資金決済法を活用」)
出典
- SBIホールディングス「国内初の信託型円建てステーブルコイン『JPYSC』、裏付け資産の一部で日本国債の運用を開始」
- あたらしい経済「SBIの円ステーブルコイン『JPYSC』、裏付け資産10億円を国債で運用開始」
- NADA NEWS「ステーブルコインJPYSC、短期国債で運用開始」
- CoinChoice「SBI、円建てステーブルコインの資金10億円を国債で運用へ。何が変わる?」
- JinaCoin「JPYSCが裏付け資産で国債運用を開始──改正資金決済法を活用」
- SBI VCトレード「ステーブルコインUSDCを発行するサークル社の2025年Q3決算分析」
- 三井住友DSアセットマネジメント「日本の長期金利は一時2.945%に上昇〜その背景と今後の展望」
免責事項
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