Zcash(ZEC)は8月22日、8年ぶりの高値となる855ドルを付けた。米グレイスケール・インベストメンツが8月21日、2017年に設定した既存のZcash Trustを現物ETFへ転換するための5回目の修正登録届出書(Form S-3/A)を米証券取引委員会(SEC)に提出したことが直接の引き金となった。
この記事のポイント
- グレイスケールは8月21日、Zcash現物ETF(名称「The Zcash ETF」、ティッカーZCH、NYSE Arca上場予定、年間スポンサー料2.5%)への転換に向けた5回目の修正届出書をSECに提出した。承認を意味するものではない。
- 7月28日に稼働したハードフォーク「Ironwood」で、4年間潜在していた偽造バグを抱えたOrchardプールが封鎖され、8月9日にはIronwoodが最大のシールデッドプール(197万6,378 ZEC、10億ドル超)となった。
- 一方でEUは反マネーロンダリング規則(AMLR)第79条により、2027年7月10日から匿名性強化型暗号資産の取扱いを事業者に禁じる。米国の機関投資家化とEU・日本の取扱い制限が同時に進行している。
目次
グレイスケールの修正届出とZcash ETFの中身
The Blockによると、グレイスケールが8月21日に提出した修正届出書は、既存のZcash Trustを現物ETFに転換する内容で、今回が5回目の修正にあたる。ファンド名は「The Zcash ETF」、ティッカーはZCH、上場先はNYSE Arcaが予定されている。
年間スポンサー料は2.5%と、ビットコインやイーサリアムの現物ETFに比べて高い水準に設定されている。カストディアン(資産の保管者)はCoinbase Custody Trust Company, LLC、名義書換代理人はニューヨーク・メロン銀行(BNY Mellon)が務める。実現すれば米国初のZcash現物ETFとなる。(参考: The Block「Grayscale moves closer to launching first Zcash ETF in US with fresh amended SEC filing」)
同トラストは2017年から運用されており、提出時点の運用資産は2億6,000万ドルを超えていた。The Blockはまた、グレイスケールの親会社デジタル・カレンシー・グループ(DCG)の子会社が、約20万ZECをファンドに拠出する方向で協議していると報じた。
ブルームバーグ・インテリジェンスのETFアナリスト、ジェームズ・セイファート氏は同社の動きについて「ETFへの転換に、どんどん近づいているように見える」と述べた。ただし修正届出書の提出はSECの承認を意味しない。上場までには規則変更の承認と登録の効力発生が必要で、時期は確定していない。
用語の整理
- シールデッドプール:Zcashで送金額やアドレスを暗号技術で秘匿したまま資金を保持する領域。プール内の残高は個別には見えないが、合計額は検証できる。
- Form S-3/A:米国で証券を継続的に発行する企業が使う簡易登録様式S-3の修正版。SECの指摘を受けて内容を書き直すたびに番号が積み上がる。
- スポンサー料:ETFの運用会社が受け取る年間手数料。信託財産から日々差し引かれる。
- 匿名性強化型暗号資産:取引の送受信者や金額の追跡を技術的に困難にする暗号資産。Zcash、モネロ、ダッシュなどが該当するとされる。
8年ぶり高値と週間70%高の値動き
ZECは8月22日に855ドルを付け、2018年以来8年ぶりの高値を記録した。8月24日時点でも854ドル前後で推移し、時価総額は約144億ドルとなっている。The Blockは同銘柄を時価総額で12番目の暗号資産と位置づけた。
米ヤフー・ファイナンスは、Zcashが1週間で70%上昇し、プライバシーコイン全体が再び物色対象になっていると伝えた。(参考: Yahoo Finance「Zcash Rallies 70% in a Week as Privacy Coins Return to Focus」)
この上昇は市場全体の地合いとも重なっている。8月中旬以降、暗号資産の時価総額合計は2.7兆ドル台まで回復し、主要アルトコインの多くが20%を超える上昇を見せた。ZECの伸び率はその中でも突出している。
もっとも、短期間の急騰は反動も伴う。ZECは2026年6月にも、修正済みの脆弱性を材料に下落する場面があった。上昇分の多くはETF申請という一つの材料に依存しており、承認の遅延や不許可があれば水準の維持は難しくなる。
Ironwoodアップグレードとシールデッドプールの入れ替え
価格材料の背景には、7月末に完了したプロトコルの大規模な作り替えがある。CoinDeskによると、Zcashは7月28日にハードフォーク「Ironwood」を稼働させ、それまで主力だったOrchardプールを閉じた。
Orchardの証明回路には、2026年5月に発見されるまで4年間気づかれなかった偽造(counterfeiting)バグが存在していた。理論上は存在しないZECを作り出せる可能性があったもので、悪用された形跡は報告されていない。対応として約17億ドル相当のZECを新たな会計上のゲートの内側に固定し、形式検証を経た新プールIronwoodへ移行させる方式が採られた。(参考: CoinDesk「Zcash Seals $1.7 Billion Shielded Pool as Ironwood Upgrade Activates」)
移行は速いペースで進んだ。稼働初日に約8,000万ドル相当のZECがIronwoodへ移り、8月9日にはIronwoodがOrchardを抜いて最大のシールデッドプールとなった。保有量は197万6,378 ZEC、10億ドルを上回る。
経緯
2026年1月Electric Coin Company(ECC)の従業員が、Bootstrapとのガバナンス対立を理由に全員辞任。
2026年3月旧ECCチームが設立したZODLが、a16z crypto、Coinbase Ventures、Winklevoss Capitalなどから2,500万ドルを調達。
2026年5月Orchardプールの証明回路に、4年間潜在していた偽造バグが見つかる。
7月28日ハードフォークIronwoodが稼働。約17億ドル相当のZECを抱えたOrchardを封鎖。
8月6日法人向け導入を担うZcash Labsが発足。
8月9日IronwoodがOrchardを抜き最大のシールデッドプールに(197万6,378 ZEC)。
8月21日グレイスケールが現物ETFへの5回目の修正届出書をSECに提出。
8月22日ZECが8年ぶり高値の855ドルを付ける。
Zcash Labs設立と法人保有の拡大
組織面の再編も同時に進んでいる。CryptoSlateによると、2026年1月にECCの従業員が一斉に辞任した後、Zcashのエコシステムは3つの主体に分かれた。コミュニティ運営を担うZcash Foundation、ウォレットとプロトコル開発を引き継いだZODL、そして商用連携を担う新設のZcash Labsである。
Zcash Labsは8月6日に発足し、プロジェクト費用をいったん立て替えたうえで、後からZEC保有者に20%を上乗せして償還を求める資金モデルを採る。最初の支援案件「zcashtocash」は、ZECをVenmo、Revolut、Cash App、Chime、Monzo、Zelleと100を超える地域で接続する構想だという。(参考: CryptoSlate「Zcash is borrowing crypto’s new institutional playbook as privacy goes mainstream」)
同記事によれば、シールデッドプール全体の保有量は437万ZECで、供給量の25.9%、金額にして約21億ドルにあたる。シールデッド取引は1日平均5,059件で、前年同期比117%増となった。秘匿機能が実際に使われる比率が上がっている点は、価格とは別に確認できる変化である。
上場企業による保有も進む。ZEC保有を戦略に掲げるサイファーパンク・テクノロジーズ(CYPH)は、8月11日時点で32万3,394.38 ZECを平均取得単価341.83ドルで保有していると発表した。流通供給量の約1.92%にあたり、同社は供給量の5%取得を目標に掲げている。
同社の2026年第2四半期決算は純利益3,940万ドルで、前年同期の1,660万ドルの純損失から転じた。うち4,600万ドルはZEC保有分の評価益である。四半期中にZEC価格は243.35ドルから400.09ドルへ上昇した。(参考: PR Newswire「Cypherpunk Technologies Reports Second Quarter 2026 Financial Results」)
評価益は価格変動をそのまま損益に反映する会計処理によるもので、確定した現金収入ではない。第1四半期には同社が7,700万ドルの損失を計上したと報じられており、ZEC価格が下げれば数字は逆方向に振れる。
EUのAMLR第79条と日本の取扱い制限
米国で機関投資家向けの器が整いつつある一方、欧州と日本では逆方向の規制が動いている。EUの反マネーロンダリング規則(規則2024/1624、AMLR)第79条は、暗号資産サービス提供者が取引を秘匿する口座を保有することを禁じ、匿名性強化型暗号資産を名指ししている。適用開始は2027年7月10日である。(参考: Yahoo Finance「EU to Ban Privacy Coins, Anonymous Accounts and Cap Cash at €10,000 by July 2027」)
ただし規制対象は事業者であり、自己管理ウォレットでの保有そのものは対象外とされている。Zcashにはアドレスを公開する透明アドレスと、閲覧鍵(第三者に取引履歴の閲覧のみを許す鍵)が存在するため、モネロに比べれば取引所側が説明可能性を主張しやすいとの見方もある。ただし当局がこれを認めるかは確認できていない。
日本では規制がさらに早く、2018年に日本仮想通貨交換業協会(現・日本暗号資産等取引業協会、JVCEA)が匿名性の高い暗号資産の取扱いを認めない自主規制方針を示した。コインチェックは同年6月18日にモネロとZcashを含む4銘柄の取扱いを廃止している。(参考: Business Insider Japan「匿名通貨は禁止、ICOは事前に審査 — 仮想通貨取引の自主ルール案まとまる」)
| 地域 | 現在の扱い | 今後の予定 |
|---|---|---|
| 米国 | 主要取引所で取扱い継続。グレイスケールが信託を運用 | 現物ETF(ZCH)をNYSE Arcaへ申請中。承認時期は未定 |
| EU | AMLRの段階適用が進行中。licensed事業者の取扱いは縮小 | 2027年7月10日にAMLR第79条が全面適用。事業者は匿名性強化型資産を上場廃止 |
| 日本 | 2018年の自主規制以降、国内交換業者は取扱いなし。保有自体は違法でない | 取扱い再開の具体的な動きは確認されていない |
今後の論点
第一に、SECがZcash現物ETFをどう扱うかである。ビットコインやイーサリアムと異なり、Zcashには秘匿機能があり、マネーロンダリング対策の観点から追加の説明が求められる可能性がある。5回目の修正提出は審査が進んでいる証左ではあるが、承認の確約ではない。
第二に、2.5%というスポンサー料の水準である。ビットコイン現物ETFの手数料競争が0.2%前後まで進んだ現状と比べると高く、資金流入の規模を左右する要因になり得る。
第三に、競合の存在である。CryptoSlateは、イーサリアムやソラナが既存ネットワークに秘匿機能を組み込みつつあり、流動性で劣るZcashにとって配信面の課題になると指摘した。プライバシー機能が専用チェーンの独自性でなくなれば、ZECを保有する理由は相対的に弱まる。
編集部の見方では、今回の上昇はETF申請という単一の材料への反応が大きい(根拠: 8月21日の提出翌日に8年ぶり高値を付け、それ以前の週間上昇率も70%に達している)。Ironwood移行やシールデッド取引の増加といったネットワーク側の変化は継続的な材料だが、価格の水準を単独で説明するものではない。
出典
- The Block「Grayscale moves closer to launching first Zcash ETF in US with fresh amended SEC filing」
- Yahoo Finance「Zcash Rallies 70% in a Week as Privacy Coins Return to Focus」
- CoinDesk「Zcash Seals $1.7 Billion Shielded Pool as Ironwood Upgrade Activates」
- CryptoSlate「Zcash is borrowing crypto’s new institutional playbook as privacy goes mainstream」
- PR Newswire「Cypherpunk Technologies Reports Second Quarter 2026 Financial Results」
- KuCoin「Ironwood Surpasses Orchard as the Largest Shielded Pool on Zcash」
- Yahoo Finance「EU to Ban Privacy Coins, Anonymous Accounts and Cap Cash at €10,000 by July 2027」
- Business Insider Japan「匿名通貨は禁止、ICOは事前に審査 — 仮想通貨取引の自主ルール案まとまる」
免責事項
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