イーサリアム財団(Ethereum Foundation、EF)は10月1日、ゼロ知識証明を使って、利用者の身元を明かさずにAIモデルなどのAPI利用料を支払える仕組み「zkAPI」を公開した。研究組織のオープン・アノニミティ・プロジェクト(Open Anonymity Project)と共同で開発したもので、イーサリアムのメインネットですでに稼働している。
この記事のポイント
- ETHやUSDCを金庫コントラクトに預け、ゼロ知識証明で「残高が足りること」だけを示して使い捨てのAPIキーを受け取る仕組み
- 支払いを処理する側は利用内容を、AI事業者は支払った人を知らない構造で、両者の紐付けを断つ
- 通信経路の匿名性は提供せず、IPアドレスや文章の癖から利用者が特定される余地は残る。財団は「実験段階」と位置づける
zkAPIの公開と開発体制
zkAPIは、従量課金型のAPIを「誰が使っているかを知られずに」利用するための仕組みである。財団の公式ブログによると、開発はオープン・アノニミティ・プロジェクトが財団と共同で担い、イーサリアムのメインネット上で動いている。(参考: Ethereum Foundation Blog・Introducing zkAPI)
設計の元になったのは、財団の分散型AI(dAI)チームを率いるダビデ・クラピス氏と、イーサリアム共同創設者のヴィタリック・ブテリン氏が、研究者向けフォーラム「Ethereum Research」に2月11日付で公開した「ZKによるAPI利用クレジット」の構想である。The Blockは、dAIチームが2025年9月に発足し、2026年1月にはAIエージェント関連の規格「ERC-8004」を打ち出していたと伝えた。(参考: The Block・Ethereum Foundation launches zkAPI)
zkAPI公開までの経緯
2025年9月イーサリアム財団が分散型AI(dAI)チームを発足
2026年1月AIエージェント向け規格ERC-8004を公開
2026年2月11日クラピス氏とブテリン氏が「ZKによるAPI利用クレジット」の設計を公開
2026年10月1日オープン・アノニミティ・プロジェクトと共同でzkAPIをメインネットで公開
(The Blockおよび財団公式ブログの記載をもとに編集部作成)
預け入れから精算までの仕組み
利用者はまず、ETHやUSDCをイーサリアム上の金庫(ボールト)コントラクトに一度だけ預ける。預けた資金は、財団の説明では「本人だけが使え、預け入れまでたどれないデジタル現金」のような非公開の記録として、マークル木(大量のデータを1つの値に要約する木構造)に格納される。
API利用時には、利用者の端末上で小さなゼロ知識証明が作られる。これは「資金のある記録がこの支払いを賄え、まだ誰も使っていない」ことだけを示すもので、どの預け入れが原資かは明かさない。二重払いは「ナリファイア」と呼ばれる使用済み番号で防ぐ。
サーバーは証明を検証すると、有効期限が短く、ドル建ての上限が付いた新しいAPIキーをその場で発行する。利用者はこのキーでAI事業者に直接リクエストを送る。キーの期限が切れると、事業者側が利用総額を署名付きの領収記録として残し、その額が利用者の残高から差し引かれる。上限額は事前の「予約枠」として機能し、使い切らなかった分は残高に戻る。
財団は、zkAPIのサーバーがすべて停止した場合でも、利用者は金庫コントラクトから残高を引き出せるとしている。証明方式にはGroth16(BN254曲線)、ハッシュ関数にはPoseidonを採用し、マークル木は32階層で構成する。(参考: Ethereum Foundation Blog・Introducing zkAPI)
The Blockによると、手元の端末(localhost)で動く中継ソフトを介して、OpenAI互換やOllama互換のAPIを使うアプリから利用できる。ブラウザ上で使えるチャット「OA Chat」も用意されている。(参考: Cryptopolitan・Ethereum targets AI privacy with zkAPI)
| 項目 | 従来のAPI利用 | zkAPI |
|---|---|---|
| 支払い手段 | アカウントに登録したクレジットカードなど | 金庫コントラクトに預けたETHやUSDC |
| APIキー | アカウントに固定で紐付く | 短期間で失効し、利用上限付きで都度発行 |
| AI事業者が分かること | リクエスト内容と契約者の身元 | リクエスト内容(身元とは切り離される) |
| 支払い処理側が分かること | 利用者と利用額 | 利用額のみ(内容は見えない) |
| 通信経路の匿名性 | なし | なし(Torなどの併用が前提) |
(財団公式ブログ・各社報道をもとに編集部作成)
用語の整理
- ゼロ知識証明: ある主張が正しいことを、根拠となる情報そのものを見せずに証明する暗号技術
- ナリファイア: 同じ残高が二度使われていないかを確かめるための使用済み番号。誰の残高かは分からない
- TEE(信頼できる実行環境): 外部から中身をのぞけないよう隔離された計算領域
- Tor: 複数の中継点を経由して通信元を分かりにくくする匿名通信の仕組み
AI利用に付きまとう身元情報の問題
財団はブログで「現在、AIのAPI呼び出しにはすべて身元が付いている。APIキーはアカウントに、アカウントは支払い手段に結び付き、送ったプロンプトはその両方に紐付いた記録に加わる」と問題を説明した。事業者は、長年の利用履歴を1つのプロフィールとしてつなげられる状態にある。
Unchainedによると、財団は「プロンプトは個人的なものだ。人々は健康や家計、迷いについてAIに尋ねる」とも述べ、公開当初の主な用途にAI推論を据えた理由を説明した。そのうえで「お金を扱うサーバーは内容を見ず、内容を見る事業者はキーの背後にいる支払い者を知らない」と設計の狙いを示した。(参考: Unchained・Ethereum Foundation Launches Privacy Tool That Cuts the Link Between AI Prompts and Payers)
共同開発したオープン・アノニミティ・プロジェクトのケン・リウ氏(スタンフォード大学博士課程)は、zkAPIについて「OAの『紐付けできない推論』を一般化し、支払いも抽象化したようなものだ。プライバシーと主権を土台に据えたインフラがもっと存在すべきだ」と述べた。(参考: The Block)
財団が明示した制約と対策
zkAPIは支払いと身元の紐付けを断つものの、完全な匿名化をうたってはいない。財団は、zkAPIがネットワーク上の匿名性を提供しないことを明記している。AI事業者は引き続きリクエストの中身を読むことができ、IPアドレスなどのメタデータも把握できる。
財団のブログは、利用者が同じIPアドレスからリクエストを送り続けると、中継役のゲートウェイがリクエストのパターンを関連付けられる可能性を指摘した。また、同じ個人情報や文章の癖、使い回した会話履歴、プロジェクト資料を送れば、推論事業者が個別のセッションを再び結び付けうるとしている。
対策として財団は、セッションごとに新しい経路を使うTorの併用や、ローカル環境やTEE上のモデルにリクエストを組み立てさせ、利用者が手で書いた文章をそのまま送らない方法を挙げた。プロトコル自体は「実験段階」と位置づけられている。(参考: Ethereum Foundation Blog)
なお、財団のブログには外部監査の実施状況や処理性能の数値は記載されておらず、編集部では確認できていない。
用途の広がりと今後の論点
The Blockは、想定用途としてAIチャットやAIエージェントのほか、ブロックチェーンのRPC(ノードへの問い合わせ)、画像・動画生成、VPNの通信量、AIエージェント同士の機械間決済を挙げた。仕組みはAI専用ではなく、従量課金のAPI全般に適用できる設計である。
Cryptopolitanは、有料の推論サービスが増えるなか、利用者の身元を明かさずにアプリが有料AIへアクセスする方法を変えうると伝えた。(参考: Cryptopolitan)
編集部の見方では、普及の鍵は対応する事業者の広がりにあると考えられる。根拠として、現時点では身元が切り離されても事業者がリクエスト内容を読める構造に変わりはなく、利用者の安心感は事業者側の運用や、Tor・TEEといった周辺技術の併用に左右されるためだ。暗号資産で預け入れる手間が一般利用者にとって障壁になるかどうかも、今後の論点となる。
匿名性の高い支払い手段は、各国でマネーロンダリング対策との兼ね合いが議論されてきた分野でもある。zkAPIは上限付きの少額利用を前提とした設計だが、規制当局がこうした仕組みをどう評価するかは現時点で明らかになっていない。
出典
- Ethereum Foundation Blog・Introducing zkAPI: private usage credits for any API
- The Block・Ethereum Foundation launches zkAPI to let users pay for AI models without revealing identity
- Unchained・Ethereum Foundation Launches Privacy Tool That Cuts the Link Between AI Prompts and Payers
- Cryptopolitan・Ethereum targets AI privacy with zkAPI for anonymous API payments
免責事項
本記事は情報提供を目的としたものであり、投資助言や特定の暗号資産・サービスの利用を勧めるものではありません。暗号資産への投資や新しいプロトコルの利用には価格変動や技術的な不具合などのリスクが伴います。最終的な判断はご自身の責任で行ってください。なお、本記事はAIを活用して作成しています。正確性に努めていますが、内容が事実と異なる可能性があります。重要な情報はご自身で公式・一次情報をご確認ください。


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